菓子木型とは~伝統工芸としての菓子木型

 あらゆるものが大量生産され,規格化されてきた現在では,職人芸とか名人芸とかといった言葉もほとんど聞かれなってきている。将来その道の職人と言われる人も消滅の一途を辿る事が予想されるが,和菓子の木型職人も例外ではない。
 そんな菓子木型が 平成十一年二月十六日香川県庁において真鍋知事より伝統工芸の認定を受けた。これは日本の誇る和菓子文化の裏方として、その分野で末永く貢献しろとの激励でもあると認識して、一日も長く技の研鑚に励み、願わくは後継者の育成にも貢献する事が出来ればと思っている。



 和菓子づくりに欠かせない菓子木型は、江戸時代に発祥したと言われる。魚や花などの図柄を何種類ものノミ、彫刻刀で、左右凸凹を逆に彫っていく。完成した木型を2枚重ね、砂糖や餡などの材料を入れて抜き出すと様々な形の和菓子ができあがる。決して表に出ない地味な存在の菓子木型だが、人々の目を舌を愉ませてくれる和菓子になくてはならないのだ。

 

(中略)


 菓子木型とは和菓子職人が存分に腕を振るって美しい菓子を作る事が出来るようにとの意図で作られた道具である。四季の風物が様々に彫り込まれ、木型自体が美しい表情を見せる。中には鯛や宝尽くしの型もあり、かつて菓子が祭礼に多く用いられ、祈りと感謝の心の象徴であった事が偲ばれる。真っ赤な鯛の落雁は魔よけのおまじないでもあった。
 一口に和菓子といってもその製法は多彩である。
 焼き物 (焼き饅頭等) 打ち物(落雁や和三盆等の干菓子等) 練り物(練り切り求肥等の生菓子) 蒸し物(上用饅頭等)流し物(羊羹等)の五種に分類されるが、流し物以外では何らかの形で菓子木型が使用されている。
 茶道で用いられる菓子は小さくて上品であることが必須で洗練された美しさを持ちその意匠は簡素で、味わいは淡彩である。
 西洋の菓子は(中国も同様)ラード、牛乳、バター、といった動物性要素を含むが、日本の菓子は穀物あるいは豆、果実といった植物の純粋さを目指す。幾つかの植物の好ましい要素だけを集めて、美しい和菓子という形に再結晶させるその魔法の道具は樹齢百年を経た山桜で出来ている。

 全国的にも同業者が減少の一途をたどっているけれど、菓子木型作りを自分の天職と信じ、木型がいい人生を歩めるようにと魂を込める。技術とアイデアのすべてを注ぎ、方寸の木型の中に宇宙を表す。

(高松文化協会発行 文化たかまつ青嵐号《2001年5月20日発行》より抜粋。


伝統工芸の今

決して表に出ない地味な存在の菓子木型だが,和菓子づくりにはなくてはならないものです。

 古くから海上交通の要所として開けたここ香川県には、豊かな風土の中で育まれ、人々の手から手へと受け継がれてきた伝統的工芸品が沢山あります。その中でも技術者の減少が顕著ながらも次代に残していくべき価値のある工芸品に対し、伝統的工芸品として指定して保護育成すべき施策が実施されております。
 これらはまず指定の条件の一つに、使われる材料が天然の素材である事。木、竹、土、紙そして布等がそうです。次にその主たる工程が昔ながらの技法技術にて作られていること。そして3番目にその技術が江戸時代に完成されていて、見た目美しい工芸品である事。そして二十年以上の経験を持ち、製作に当たっては高度の技術を要する事。このような条件に括られたのが伝統工芸です。香川県の指定としては菓子木型の他にも合計32品目(平成13年6月1日現在)が指定を受けています。

 伝統工芸のなかには、上記の県の指定の伝統工芸以外に通産大臣の指定する国の伝統工芸が有ります。この認定を受けるには上記の条件以外に、さらに同一地域に同業者三十事業所以上の存在が必要になっております。香川県では香川漆器と丸亀団扇が国の指定を受けています。
 いわば時代劇の中にそっと置いても違和感の無いような物が対象品ですが、今日でも日常の生活の中で愛用され、人々に安らぎと潤いをもたらしています。 時代の変化の激しい時代に一つの伝統を守って行くということは大変難しい事ですが、これからも長い間に培ってきた伝統の技は守り、なおかつ現在のニーズに合った新しい物作りも視野に入れ励んでいかなければなりません。そのような中でなおかつ後継者の育成の必要性も考えながら、製作に思いをはせる毎日です。
(2001.07.01)